大震災に耐えた国宝のお寺 現代の在来工法にも通じる耐震対策とは
江戸時代以前の耐震対策とは
日本が世界でも有数の地震大国であるのは誰しもが認めるところです。そのため、日本の住宅耐震技術は非常にすぐれたものとなっています。特に1923(大正12)年の関東大震災以降、耐震研究が進歩したと言われています。
しかしながら、日本はそれ以前から何度も地震に見舞われてきました。数百年も前の時代に建てられながら、いく度かの地震に耐え、いまでも現存している歴史的建造物も数多くあります。そのような建物には何らかの耐震対策が施されていたのだと思われますが、それは、どのようなものであったのでしょう?
つい最近、江戸時代に建造されたお寺の大修理を通してとても興味深いことが分かりました。400年前の木造建築物に、現代の建築技術にも通じる耐震対策が施されていたのです。
国宝のお寺で見つかった耐震補強
そのお寺とは、宮城県松島町の瑞巌寺。1604(慶長9)年から5年の月日を掛けて仙台藩祖であった伊達政宗公が造営したお寺で、国宝にも指定されている伝統と格式のある東北随一の名刹です。2009(平成19)年「平成の大修理」と呼ばれる解体修理が始まり、2018(平成30)年6月、10年以上にも及ぶ工事が完了し落慶法要が行われました。
この工事中、日本の建築史にとって、とても貴重な発見があったのです。それは、本堂の解体工事中に見つかりました。主要な全ての壁に「筋交い」が入っていたのです。部材や構造から、これらの筋交いは創建の時に設置されたものであることが分かりました。
筋交いとは、木造建物構造材のひとつで、柱と梁(はり)で囲まれた四角形の部分に補強材を対角線のように取りつけたものです。この手法は、現代では最も一般的な耐震対策のひとつとなっていますが、日本では19世紀後半の、江戸時代末期に海外から伝わり普及してきたと考えられていました。しかし、それに先立つこと200年以上、日本独自の工法である伝統構法により建てられたお寺にその技術が使われていたのです。
伝統構法と在来工法
ここで少し日本の建築工法について触れておきましょう。
日本に昔から伝わる主な木造の建築工法に、木造軸組工法という工法があります。これは、柱や梁・土台などを木の柱で組み合わせて骨組みを造り、あとから壁などをつけていく方法ですが、この工法はさらに在来工法と伝統構法の2つに分かれます。
伝統構法では、締め固めた地面に石を置き、その上に柱を建て、壁は柱と柱を通し貫で繋ぎ、竹小舞に土壁を塗ります。地震等の外力が加わった場合、壁は土壁が壊れることで外力を吸収する仕組みとなっており、木組だけで固められた構造体がしなり、強い外力が加わって柱が石から外れ傾いたとしても構造体が壊れることはありません。
大まかには、江戸時代末期以降に西洋建築学の影響を受ける以前が伝統構法、それ以降が在来工法となります。
したがって、西洋建築学の影響を受ける前から残る神社仏閣などは伝統構法により建てられたものと考えて良いでしょう。また、在来工法は現代の木造住宅に最も多く用いられ、この工法において筋交いは、一般的かつ基本的な耐震補強の方法です。
現代にも通じる国宝を守った技術
瑞巌寺本堂の筋交いは、部屋と部屋とを区切る壁全てに規則正しく施され、耐震対策を目的にしていることが明らかだと言われています。伝統構法は柱や梁の連結に釘や金物を使わず、「木組み」と呼ばれる方法で構造体を組み上げることによって地震の揺れを柔軟に吸収する、免震的な構造になっています。瑞巌寺を設計した人は、この構造に筋交いをプラスすれば、より丈夫な建物になることを知っていたのでしょう。
そのためか、東日本大震災当時、瑞巌寺は修理中にもかかわらず、震災の揺れに耐えることができました。400年前の耐震対策が貴重な国宝を守ったのです。その技術が現代と同様のものであったとは驚きですね。
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